先日「先生、この痛み、どうにかなりませんか。つらくて…」と相談がありました。お話を伺いますと、ヘルペスの後遺症で顔面、頭部の神経痛が残り、痛み止めを飲んでもあまり楽にはなりません、とのことです。本当につらそうでした。
今回は、春や秋によく発症するこの帯状疱疹(たいじょうほうしん)についてお話しします。子どもの頃、水ぼうそうにかかった人も多いと思います。このウイルスは水ぶくれが治った後も、せき髄の神経にひそんでいて、過労や睡眠不足、ストレスなど、その人の免疫力が弱くなった時に、神経中の帯状疱疹ウイルスが、体の左右どちらか一方の神経にそって広がって帯状疱疹が起こります。お腹や手足にもできますが、特に顔や胸に多発し、神経痛のようなチクチクする激しい痛みと、赤発、水ぶくれが集まってできてきます。
水ぶくれは1カ月ほどで黄色くなり、かさぶたとなって皮膚は治ったように見えますが、厄介なのは、後遺症として残る神経痛です。頭や顔の痛みは特に強く高熱が出ることもあり、目の角膜にまでおよぶと、視力が低下して失明することもあります。また雨の前日や寒い日には痛みはよりいっそう強くて、患者さんは精神的にも大変つらい思いをしています。
病院の皮膚科では、血清療法や抗生物質とステロイドの入った軟膏、神経ブロックなどの対症療法を行いますが、特に老齢者の場合、後遺症として神経のつらい痛みが長年残ることが多いようです。漢方では、帯状疱疹の性質、痛みの特徴や部位を判断して、疱疹の消退、痛みの軽減を行い、後遺症を残さないように考えて薬を使い分けます。それではいつものように代表的な漢方薬をご紹介します。
葛根湯(かっこんとう)…初期のヘルペスに2時間おきぐらいに服用するとよく効きます。
清上防風湯(せいじょうぼうふうとう)…特に顔面ヘルペスの時に。
越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)…紅暈(こううん)を伴う小水疱が帯状に群生している急性期に。
桂枝加朮附湯(けいしかじゅつぶとう)…体を冷やしたり、特に冷たい風に当たると激しく痛む時に。
補中益気湯(ほちゅうえっきとう)…体力や免疫力が低下していて、疲れると神経痛が強くなる人に。
麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)…帯状疱疹の神経痛様疼痛に最もよく用います。三又神経痛も助間神経痛もそうですが、このヘルペス後
遺症神経痛も、やはり体をよく温め、休めて免疫力を強くすることです。
さてことしもあとわずかになりました。何かと気ぜわしい師走ですが、風邪など引かないようにしてよい年を迎えましょうね。