今回は中高年男性を悩ます前立腺肥大症についてお話しします。前立腺は栗の実ぐらいの大きさで、膀胱の出口で尿道を囲むようにあります。60歳以上で7割以上の男性に肥大が見られ、一種の老化現象とされていますが、この年齢を境にして、なぜ肥大化するのかまだよく分かっていません。
ただ、前立腺は精子が活発に運動しやすくするための精液をつくるところなので、性ホルモン分泌の衰えが原因の一つと考えられています。肥大化が進むにつれ、排尿回数が増え(特に夜間の排尿)、排尿後の尿が出きらず、残尿感や尿失禁、あるいは尿がまったく出なくなることもあります。
さらに悪化しますと、細菌の繁殖により、膀胱炎や尿路感染症が慢性化したり、腎機能の低下による尿毒症などを引き起こしてしまいます。
現在の治療法としては、女性ホルモン剤、消炎剤、血流促進剤などの内服薬で排尿を促し、残尿感などを減少させますが肥大を縮小させるお薬はありません。また進行肥大してしまった時には、手術になります。手術によって排尿が促されれば腎臓の機能も回復してきます。
さて、前立腺肥大症の人は、ぜひ漢方薬を試してみてください。漢方では昔からこの症状を「腎虚」といい、代表的な八味地黄丸で8割の人がよく治るとされています。尿路が前立腺で圧迫され、カテーテルで排尿させなければならない場合でも漢方の内服で治ってしまうこともあります。それでは代表的な漢方薬をご紹介します。
八味地黄丸(はちみじおうがん)…疲れやすく、夜何回もトイレに起き、足腰の弱りや冷えを感じ、また口のよく渇くような人に。最もよく用いられます。
大黄牡丹皮湯(だいおうぼたんぴとう)…便秘がちで尿が出にくく下腹部に圧痛があり膀胱に痛みがある人に。
猪苓湯(ちょれいとう)…口が渇き尿の出が悪く、排尿痛や残尿感などの排尿障害のある人に。
牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)…尿量減少するか、逆に多尿の人で下肢痛や腰痛、しびれ、むくみなどを目標に用います。
前立腺肥大という病気は、昔から欧米人に比べて日本人には少なく、また「人生わずか50年」の時代にはあまりなかった病です。近年、寿命が延びるにつれ、多くの男性に発症するようになりました。漢方では老化による腎精の衰えと考えていますが、私を含め、世の多くの男性がいくつになっても精力的でありたいと願っているのではないでしょうか。