vol.86「帯下(おりもの)異常」
一雨ごとに猛暑も和らぎ、過しやすくなってきましたね。
今回は女性だけのお話しです。
そもそもおりものは、膣内の潤いを保ち雑菌の侵入や増殖を防ぐ働きをもっています。口の唾液や目の涙と同じようなものです。よく抗生物質を飲むとカンジタ膣炎になる人がいますが、これはおりものの中の善玉菌が除菌されてしまうので、カビの一種のカンジタ真菌が増えてしまうからです。
生理不順や生理痛に並んで女性のおりものの悩みは多く、昔は婦人科医をこしけ医とよんでいたほどです。これは現代もあまり変わっていません。
さて、おりもの異常の原因ですが①ホルモンバランスの乱れ、②ヘルペス、ウイルス、③精神的な理由、④肥満症、冷え、などが考えられます。症状としては血が混ざる子宮癌やクラミジア頚管炎、卵巣のう腫、ボソボソとして痒みがあるカンジタ膣炎、くすんだ薄緑色でツンと匂いがある淋菌や大腸菌などの雑菌感染症、泡立ったおりもので強い痒みを伴うトリコモナス膣炎、などが疑われます。
また、このおりものとともに会陰部のピリピリとした神経病に悩まされている女性も多くいるようです。
西洋医学での膣剤では止めるとくり返し再発することが多いようですが、漢方では特に骨盤内の炎症やうっ血、冷え、むくみをのぞき、温めながら血流を良くし、子宮機能を調整してゆきます。同時に冷えのぼせ、肩こり、頭痛、めまい等の女性の血の道症や不妊症も改善される場合がほとんどです。おりもの等でお困りの人はどうぞ漢方薬を試してみて下さい。
それでは代表的な漢方薬をご紹介します。
・竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)・・・・急性または亜急性の尿道炎、膀胱炎、滞下、陰部痒痛、子宮内膜症、膣炎、トリコモナス等に最もよく用いられます。
・当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)・・・・強い冷え症で下肢が冷痛し、基礎体温が低く、生理異常やきつい生理痛を伴うようなおりものの過多に。
・当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)・・・・冷え性、貧血、体力虚弱で下腹部痛、生理痛、生理不順、頭痛、めまい、むくみ、肩こり、足腰の冷えに。
・桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)・・・・下腹部の痛み、腫瘤、不正出血、子宮筋腫、子宮内膜症、冷えのぼせなどのおりものの改善に。下腹部に限らず全身のうっ血改善にもよく使用されます。
昔から女性の血の道症の悩みに漢方薬は心強い味方だったんですね。
2017-07-14 11:00:07
vol.85「夏バテ」
ことしの夏は本当に暑かったですね。お年寄りの言葉で「今までで一番暑い」と、よく耳にします。年々暑さが体にこたえるのでしょうね。暑い夏は体力を消耗し、夜も十分な睡眠がとれません。
また冷たいもののとり過ぎで胃腸が冷えて食欲不振になったり、湿気や猛暑の外気と室内の寒いほどのクーラーの気温差などが夏の間続いたりした結果、その疲れが秋口にどっと出て体調不良になってしまうのが夏バテです。ですので、体温調節、睡眠調節、食欲調節などの自律神経の乱れが夏バテの原因になっています。他の訴えで多いのはだるさ、吐き気、めまい、頭痛、発熱、手足のしびれ、下痢や便秘などです。
さて、夏バテ対策として①こまめな水分補給②体を冷やし過ぎない③睡眠をしっかりとる④1日3食、栄養バランスを考える―などが言われていますが、「最高気温が40℃を超えました」とニュースで聞くと、もうそれだけで熱中症の気分になってしまいます。お風呂の最適温度は36~40℃ぐらいですが、連日の35℃超えは外で毎日お風呂につかっているのと同じですね。ちなみに私の夏の主食はそうめんで毎日のようにいただきますが、主に梅干し(疲労物質の乳酸を分解するクエン酸を多く含む)や、タンパク質の多い鶏肉、ビタミンB1を多く含む豚肉などがお薦めです。さらには胃粘膜を保護するムチンを含む納豆やオクラ、長イモなどもいいです。
さて、夏の終わり頃から秋口にかけて「何となくだるい」「食欲がない」「やる気が出ない」「風邪気味が続く」などを感じたら、ことしの夏の贈り物(?)夏バテ症候群かもしれませんね。そんな時はぜひ漢方薬を試してみてください。すぐにもよい効果が得られるはずです。 それでは代表的な漢方薬をご紹介します。
・補中益気湯(ほちゅうえっきとう)…体力虚弱で胃腸の働きが衰えて、疲労倦怠、食欲不振、寝汗など、秋口からの夏バテに。
・清暑益気湯(せいしょえっきとう)…暑熱で発汗し、急速に脱水を生じた時に即効性があります。日射病、熱射病、小児夏季熱、その他夏季の感染症に。
・霊黄散(れいおうさん)…胃腸虚弱、冷え性で暑い日が続くとバテる。疲れ過ぎて食欲がない、風邪を引きやすいような人に。
・藿香正気散(かっこうしょうきさん)…夏風邪や暑さによる食欲不振、急性胃腸炎、下痢、全身倦怠に。
昔の夏バテは暑さからくる食欲不振や大量の発汗、睡眠不足などでしたが、最近では夏バテは冷房病と言われるくらいで、5℃以上の温度差には体がうまく対処できず自律神経が乱れてしまいます。冷房温度は28℃位が適温ですね。
2017-07-14 10:00:07
vol.84「子宮頸ガン」
先日テレビで、子宮頸ガンのワクチンによる副作用で痛みに苦しむ若い女性のことが放映されていました。胸が痛む思いでした。
今回はこの子宮頸ガンのお話しです。
年間約5700人の女性が子宮ガンで亡くなっていますが、このうち70~80%が子宮頸ガンです。
頸ガンは30~40才代の若い女性に多くみられますが、特にここ20年間で4倍以上になったと言われています。原因としては、いぼをつくるウイルスの仲間のヒトパピローマウイルス(HPV)に感染すると、一部の細胞の遺伝子に異変が発生して異形成(前ガン病変)が起こり、進行して子宮頚ガンを発症するとされています。そこでHPVの感染を防げるために例のワクチン投与になるわけです。日本では2001年に承認されました。
子宮頸ガンの症状は初期ではほとんど無症状ですが、進行すると腰、下腹部、下肢の痛み、排便・排尿障害などが現れます。頸ガンの一般的な治療法は外科的な円錐切除術で、手術後に妊娠が可能です。また近年ではガン細胞だけを死滅させる光線力学的治療(PDT)も注目されています。
子宮頸ガンは各種のガンの中では比較的治りやすいガンで、早期ならばほぼ確実に治ってしまうようです。早期発見が大切です。
さて漢方では慢性的な難病に対しては体に備わっている抵抗力や自然治癒力の潜在的な可能性を高めようとします。特に腎を温め全身への血流やリンパ球のめぐりを活発にし(補気補陽)、病巣の瘀血を去り(去瘀)、体に力をつけて(補血補陰)、正気(体の回復力)を強めることを目指します。
漢方治療がガン等の難病に極めて有効であることを知って頂きたいと願っています。
めざましい進歩を続ける西洋医学的な論理的治療とともにぜひ古く長く続く体全体を考える東洋漢方を試してみて下さい。
それでは代表的な漢方薬をご紹介します。
四逆湯(しぎゃくとう)・・・・体力虚弱あるいは消耗し、手足、体が冷える人の免疫力向上に。
十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)・・・・全身の衰弱甚だしく、胃腸虚弱で貧血、手術後の衰弱、子宮癌、乳癌等の体力回復に。
血府逐瘀湯(けっぷちくおとう)・・・・腫瘤(肝腫、脾腫、子宮筋腫、卵巣のう腫、腹腔内血腫)など。また脳血管障害、眼底出血、血栓性静脈炎などの瘀血症状に。
桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)・・・・元来、婦人の「癥病(ちょうびょう)、漏下(ろうげ)」(子宮内のしこりやポリープ)に対して処方されていました。現在は子宮筋腫や卵巣のう腫などに用いられます。
どんな病気でも気になれば早めの検診を心掛けましょうね。
2017-03-27 16:00:07
vol.83「クローン病」
梅雨の季節はうっとうしいですね。
でも私はこの時期に咲くアジサイが大好きです。特に雨に濡れた青紫色の花が。
さて先日、昔馴染みの知り合いの方から「孫がおなか痛で学校を休んだんやけど、便に黒い血が混じっていて、びっくりしたんよ。今、腸の検査中なんやけど、もしかしたらクローン病かもしれへんて言われて...」「クローン病て??」
今回はこのクローン病のお話しです。
潰瘍性大腸炎と似ている点も多いのですが、明らかな違いは食道、胃、腸の病気で口腔から肛門までの消化管全体に発病することです。
症状は腹痛、下痢、下血、体重減少、全身倦怠感、口腔アフタなどが主ですが、消化管以外にも関節炎、皮膚炎、ブドウ膜炎等を合併することもありあす。最も発病しやすいところが回盲部(小腸と大腸のつながるところ)で、さらに小腸、大腸のあちこちにびらんや潰瘍がとびとびにみられることも特徴です。今のところ原因は全くわかっていませんが、消化管や腸管の異常な免疫反応と考えられています。
治療法は、薬物療法では鎮痛消炎剤、ステロイド剤、免疫調節薬などで栄養療法とともに症状が落ち着くまで続けられますが、根治とはなりません。 クローン病は長期にわたって慢性化するので根気よく治療を続ける必要があります。
さて漢方では、このような原因のはっきりしない病気に対しては、病名ではなく証(病邪の現れ方)を見て、内側からの体質改善を目指します。特に「奇病は血瘀と肝欝を疑え」で神経過敏体質や自己免疫疾患の調節を考え、肝(自律神経)を整えます。また消化管は漢方では脾胃(ひい)と呼びますが、これを温めて血行をよくし、胃腸を強化してゆきます。なかなか完治の決め手のない病気ならば漢方薬をぜひ試してみて下さい。驚く程の効果がみられることも多いものです。
それでは代表的な漢方薬をご紹介します。
六君子湯(りっくんしとう)・・・・貧血気味で慢性胃腸炎、胃アトニー、慢性腹膜炎、胃潰瘍、消化不良症、自家中毒症などに用いる。
桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)・・・・胃腸神経症、胃・十二指腸潰瘍、しぶり腹、腹痛、下痢等をくり返す過敏性結腸症候群などの人に。
四逆散(しぎゃくさん)・・・・自律神経失調を伴う神経性胃炎、腹張、下痢、便秘交互にくるような人に。
逍遙散(しょうようさん)・・・・精神的緊張や情緒変動とともに発生する腹痛、腹鳴、下腹部の下墜感、下痢などで一日に何度も生じるような人に。
どんな病気でも心と体はつながっているんですね。
2017-03-27 15:53:23
vol.82「掌蹠膿疱症」
あまり訊き慣れない病名ですが昔からこの病気で長年悩んでいる方が割と多くいらっしゃいます。手のひらや足のうらに小さな水疱や膿疱が次々とでき、しばらくするとその水疱や膿疱がやぶれ、血が出たり膿がジュクジュクと出て手や足のうらが腫れ、皮膚がはがれ落ちてしまう難治性の慢性炎症性疾患です。
症状を和らげるためにステロイド剤を用いますが完治せず、ひどくなると爪がはがれて剥離し、足のうらも割れて痛くて歩けなくなったり、鎖骨や肋骨に関節炎を起こし胸、肩、首、腰等に痛みを発生することもあります。実際に患者さんの症状をみると本当に痛々しいものです。
原因として考えられているのが扁桃腺、歯の問題、金属アレルギーなどですが、本当のところはっきりわかっていません。どうして手や足のうらだけに発症するのかさえ理由不明です。
最近ではビオチンというビタミン欠乏により免疫異常として、ビオチン剤を処方する病院もあるようですが完治しません。実際、本症とともに糖尿病、高脂血症、クローン病、IgA腎症、甲状腺機能異常などを併発している人も多いようです。
さて、漢方医学では病気を患部だけでなく全身的に見つめて歪みを治してゆきます。この掌蹠膿疱症のようにウイルスや細菌によって起こる皮膚病ではなく、原因の特定が難しい疾患には漢方薬が著しい効果を発揮します。
昔から奇病は血瘀と肝鬱を疑えと言われます。自律神経の乱れと血行障害のことです。特に手のひらや足のうらは皮膚のなかで最も汗をかきやすく、血液や水分循環の盛んな場所で、自律神経が主に支配しているところです。 病院治療で芳しくない人は一度漢方薬を試してみて下さい。良い効果が得られるはずです。
それでは代表的な漢方薬をご紹介します。
温清飲(うんせいいん)・・・・慢性に経過した頑固な皮膚粘膜の疾患で、特に皮膚そう痒症、乾癬、ベーチェット病、掌蹠膿疱症など。
消風散(しょうふうさん)・・・・局所に赤発と熱感、じん出液が多いか、あるいは水疱を形成し、ほてりや熱感が強いとき。
越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)・・・・水疱、浮腫、じん出液の多い、びらんなどを伴う皮膚炎に。
当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)・・・・虚証の体質者で貧血、冷え性、全身倦怠、むくみなどを伴う女性の掌蹠膿疱症に。
十味敗毒湯(じゅうみはいどくとう)・・・・化膿性湿疹のアレルギー体質改善薬に。
掌蹠膿疱症は水虫と間違われやすく、水虫薬をつけるとかえって悪化します。注意しましょう。
2017-03-27 15:45:19