Vol.143「めまい・ふらつき(前庭神経炎)」

Q.2週間ほど前、夜中にトイレへ行こうと体を起こした時、目を開けていられないくらいの強烈なめまいに襲われました。その後も頭がふわふわした感覚が続き、足元もしっかりしないので家の中でさえ歩き回るのが不安で、いつも通りに家事をこなすこともできずとてもつらいです。
 吐き気や胃がむかむかすることも多く、食欲も落ち、またあのようなめまいが起こるのではないかと思うと心配でたまらず、気持ちよくぐっすり眠ることもできません。私に何か良い漢方薬はありますでしょうか?(70代女性)

A.音は外耳→鼓膜→耳小骨→内耳の蝸牛(かぎゅう)と伝わっていきますが、この蝸牛は内リンパ液で満たされています。そこに平行して外リンパ液がありこれを前庭階とよび、通じている神経を前庭神経といいます。この前庭神経障害による主な症状はめまい、眼振、平衡機能低下です。特に前庭神経は大脳、小脳、眼球運動系、脊髄とつながっており、めまいよりもむしろふらつきがきつく感じられます。
 一般的によく知られているメニエール氏病は同じ内耳のリンパ液の異常ですが、グルグル回る強いめまいで嘔吐(おうと)をよく伴います。またこのめまい・ふらつきは耳だけの問題だけではなく、いろいろな理由で脳への血流障害によって発症します。漢方ではその原因によって処方を使い分けて治します。
 高血圧のめまいには釣藤散(ちょうとうさん)や竜胆瀉肝湯(ゆうたんしゃかんとう)、低血圧や貧血には当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、疲労性めまいには補中益気湯(ほちゅうえっきとう)、ストレス性には桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)、むくみ体質には防己黄耆湯(ぼういおうぎとう)、などです。
 今回の前庭神経炎からのめまい・ふらつきには苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)または半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)がよく効きます。実際にはこの2処方を合方する場合が多いです。ですから半夏白朮天麻湯合苓桂朮甘湯をお勧めします。この2処方は同時に健胃利水作用があり、胃腸のむかつきを治し水毒のむくみも取ってくれます。飲み始めるとすぐに効き目が現れますが、数カ月服用を続けていきますとめまい・ふらつきが起こらなくなるでしょう。どんな病気も自分が経験してみなければ分からないものですが、このめまい・ふらつきはとても不安感が強いようです。
 さて、めまい・ふらつきは体の異常を知らせてくれています。まれに脳出血や脳血管障害も考えられますので、しつこく繰り返すようなら時には検査も必要ですね。

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