日本の近代医療は西洋的な思考に基づく西洋医学を中心として著しい進歩を見せていますが、日本には伝統中国医学の知識に基づく東洋医学(漢方・鍼灸・マッサージ等)も伝えられています。西洋医学と東洋医学の違いを大ざっぱにいうと、西洋医学は病気を特定し悪いところを治療することが中心ですが、東洋医学は病名はなく証としてとらえ、体全体を見て本来持っている自然治癒力を引き出すことを中心とします。
私は漢方を専門としています。漢方には独特の「気・血(けつ)・水(すい)」という考え方があります。気とは見えない活動エネルギーです。血(血液・リンパ液・栄養分等)水を全身にめぐらせます。その循環がどこかで停滞すると病気になるというものです。
最古の漢方医学書は今から約2000年前に中国でまとめられた『黄帝内経素問』で、黄帝が弟子と問答する形式で書かれておりますが、著者は不明です。他には『傷寒論』があり、後漢の頃(200~300年)に張仲景によってまとめられたとされています。漢方を学ぶ者ならだれもが一度は耳にする中医学の聖典です。これらの医学書は病の治療法と養生法の大切さを教えています。
黄帝内経素問の一番最初にある上古天真論篇にはこんな言葉があります。「恬憺虚無、真気従え、精神内守、病安従来…」。これは「心がけが安らかで静かでありなさい。貪欲であったり、妄想したりしてはならない。欲望は少なく心境は安定していて恐れることはない。肉体を働かせても過度に疲労することがなく、そして食べたものをおいしく思い、着たものを着心地よく思い、生活を楽しみ、地位の高低をうらやむことがない。愚鈍、聡明、有能または不肖な人を問わず何事に対しても恐れることがない。そうすれば生まれながらの生命力が充実し、百歳になっても、元気で気力に満ちて動きが軽い。このような養生の道理に合致していれば『病安従来…』どうして病気になるでしょうか」と教えています。
現代的に考えればストレス、過食、働き過ぎ、怒り、恐れなどが、私たちの体を守る免疫力を防げてさまざまな病気を引き起こしますよ、ということでしょう。心がけの大切さを教えられています。
体と心は不可分という考え方が東洋医学の柱となるものです。
次回からは不妊症、アレルギー症、自立神経症などをテーマに具体的に説明をしていきます。